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東京地方裁判所 昭和53年(行ウ)159号 判決 1982年2月04日

茨城県日立市金沢町二丁目五番六号

原告

東亜建設工業株式会社

右代表者代表取締役

菊地三郎

茨城県日立市若葉町二丁目一番八号

被告

日立税務暑長

中江公人

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

被告

国税不服審判長

岡田辰雄

右被告両名指定代理人

小野拓美

重野良二

右被告日立税務署長指定代理人

荒谷英男

北澤福一

右被告国税不服審判所長指定代理人

内律昌喜

長部順一郎

主文

一  原告の被告日立税務署長に対する訴えのうち取消請求に係る訴えをいずれも却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告

(昭和五三年(行ウ)第一五九号事件)

1  被告日立税務署長が原告に対して昭和五一年六月三〇日付でした次の処分をいずれも取り消す。

(一) 原告の昭和四七年三月一日から昭和四八年二月二八日までの事業年度分の法人税の再更正及び重加算税賦課決定処分

(二) 原告の昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日までの事業年度分の法人税の更正及び重加算税賦課決定処分

2  右1の各処分に対する原告の審査請求について、被告国税不服審判所長が昭和五三年七月六日付でした各棄却裁決をいずれも取り消す。

3  訴訟費用はいずれも取り消す。

(昭和五四年(行ウ)第八五号事件)

1  右取消請求に係る各処分及び各裁決がいずれも無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告ら

1  昭和五三年(行ウ)第一五九事件につき、

(本案前)

本件訴えをいずれも却下する。

(本案)

原告の請求をいずれも棄却する。

2  昭和五四年(行ウ)第八五号事件につき、

原告の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

第二原告の請求原因

一  原告の昭和四七年三月一日から昭和四八年二月二八日までの事業年度(以下「昭和四八年二月期」という。)分の法人税についての課税経緯は次表のとおりである。

<省略>

<省略>

二  原告の昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日までの事業年度(以下「昭和四九年二月期」という。)分の法人税についての課税経緯は次表のとおりである。

<省略>

三  しかし、右一、二の表のとおり被告日立税務署長が昭和五一年六月三〇日付でした原告の昭和四八年二月期分法人税の再更正及び重加算税賦課決定処分並びに昭和四九年二月期分法人税の更正及び重加算税賦課決定処分(以下まとめて「本件処分」という。)は、いずれも所得を過大に認定した違法があり、取り消されるべきである。同様の理由により、被告国税不服審判長が右一、二の表のとおり、昭和五三年七月六日付でした棄却裁決(以下「本件裁決」という。)も取り消されるべきである。

また、本件処分で認定した所得金額の半分近くは過大認定額であるから、本件処分及び本件裁決には重大な瑕疵がある。しかも、これは、被告らが原告の主張を調査すれば容易に判明する明白な瑕疵である。よって、本件処分及び本件裁決は無効である。

仮に、右瑕疵が明白でないとしても、それが重大である以上、本件処分及び本件裁決は無効というべきである。

第三請求原因に対する被告らの認否と主張

(認否)

請求原因一、二は認め、同三、四は争う。

(本件取消請求に係る訴えに対する本案前の主張)

本件裁決書が原告に到達したのは昭和五三年八月九日である。なお、仮に、本件裁決書が原告本店事務所と至近距離にある原告代表者菊地三郎の自宅へ回付され、同居の未成年の子がこれを受領したとしても、原告代表者の同居の親族が原告代表者に代って受領したものとみなすべきである。しかも、原告代表者は同日のうちに本件裁決の内容を現実に知ったのである。

ところで、本件取消請求に係る訴えが提起されたのは、右のように原告が本件裁決のあったことを知った昭和五三年八月九日から起算して(初日を算入する。)三か月を経過した後の同年一一月九日である。

したがって、本件取消請求に係る訴えは出訴期間を徒過した不適法な訴えというべきである。

(本案の主張)

一  昭和四八年二月期分再更正処分は、次の1ないし3の合算額から4を減算した一億一三三八万四四九七円を所得金額とするものであり、適法である。

1 修正申告による所得金額 一二五六万四〇八六円

右は、原告が請求原因一の表のとおり、昭和四九年四月三〇日付でした修正申告による所得金額である。

2 売上計上漏れ(加算) 一一〇〇万円

原告は、島藤建設工業株式会社(以下「島藤建設」という。)に対し茨城県常陸太田市白羽町字粟ケ崎一七二八番イほか三筆の土地(以下「白羽町の土地」という。)を三億〇八〇〇万円で売却した。その売却代金の受領の内訳は次表のとおりである。

<省略>

ところが、原告はこれを野地不動産株式会社(以下「野地不動産」という。)に二億九七〇〇万円で売却したと申告した。よって、その差額一一〇〇万円は売上計上漏れとして益金に加算すべきである。

3 支払手数料の損金算入否認(加算)九〇三〇万円

原告は、次表の「原告申告額」欄のとおり合計一億三〇八一万円の手数料を支払ったとしてこれを損金に算入している。 しかし、原告が支払った手数料は次表の「被告調査欄」欄のとおり合計四〇五一万円である。よって、差額九〇三〇万円の損金算入は否認すべきである。

<省略>

<省略>

4 支払利息計上漏れ(減算) 四七万九五九〇円

右は、原告が水戸信用金庫高萩支店から借り入れた一億〇四〇〇万円に対する利息相当額で、損金に計上されていなかったものである。よって、この分は減算すべきである。

二  昭和四九年二月期分の所得金額は、次の1ないし5の合算額から、6、7を減算した二五四三万六四〇〇円である。したがって、その範囲内である一九一二万八〇八〇円を所得金額とする昭和四九年二月期分更正処分は適法である。

1 確定申告による所得金額 三三万五〇五二円

右は、原告が請求原因二の表のとおり昭和四九年四月三〇日付でした確定申告による所得金額である。

2 売上計上漏れ(加算) 二三〇〇万円

原告は、島藤建設に対し茨城県常陸太田市茅根町字洪沢一二八七番一外一八筆所在の土地(以下「茅根町の土地」という。)を売り渡し、売却代金として一億二三〇〇万円を受領した。ところが、原告はこれを一億円で売却したとして申告しているので、差額二三〇〇万円は売上計上漏れとして益金に加算すべきである。

3 支払手数料の損金算入否認(加算) 九〇〇万円

原告は、手数料として西野貢に一〇〇万円、野口松男に三六〇万円、伊尾春代に三〇〇万円、江幡通勇他に一四〇万円の合計九〇〇万円を支払ったとしてこれを損金に算入して申告しているが、野口松男及び伊尾春代に対する右手数料支払の事実はない。また、西野貢に対する一〇〇万円と江幡通勇他に対する一四〇万円は、後記4のとおり仕入金額として損金算入すべきものである。よって、右九〇〇万円の支払手数料の損金算入は否認すべきである。

4 仕入金額の損金算入否認(加算)七一八万一〇〇〇円

原告は、次表のとおり八一〇〇万円の仕入金額を申告した。

<省略>

しかしながら、右仕入金額に対応する各仕入取引の事実は全く存在しない。他方、右の仕入取引とは別に、原告の仕入金額として損金算入が認められるものに、別紙一の七三八一万九〇〇〇円が存在する。そこで、右の差額七一八万一〇〇〇円の損金算入は否認すべきである。

5 受取利息計上漏れ(加算) 七七万一五六七円

右は、原告の水戸信用金庫高萩支店等に対する普通預金等について生じた利息合計七七万一五六七円で、計上漏れとなっていたものである。よって、この分は益金に加算すべきである。

6 支払利息計上漏れ(減算) 一三八万〇一三九円

右は、原告の水戸信用金庫高萩支店に対する借入金利子の支払分で、損金に計上されていなかったものである。よって、この分は損金算入すべきである。

7 法人事業税の損金算入(減算) 一三四七万一〇八〇円

右は、前事業年度の所得金額一億一三三八万四〇〇〇円(千円未満切捨)に対する事業税(その算式は別紙二のとおり。)であり、当期の損金に算入すべきである。

三  原告は、右一、二で述べたところから明らかなように、売上金額の一部を除外したり、架空の支払手数料を計上する等の方法により法人税の課税標準の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺい又は仮装して、所得金額及び法人税額を過少に記載した確定申告書を提出していることから、被告は国税通則法六八条の規定に基づき次の計算により重加算税を賦課したものであり適法である。

1 昭和四八年二月期分

原告は、法定申告期限である昭和四八年四月三〇日を経過した同年九月二九日に確定申告書を提出しているので、国税通則法六八条二項の規定に基づき次表のとおり重加算税額を計算した。

<省略>

2 昭和四九年二月期分

国税通則法六八条一項の規定に基づき次表のとおり重加算税額を計算した。

<省略>

四  原告は、本件処分が重大明白な瑕疵があって無効であると主張する。しかし、右主張は、明白な瑕疵というものの内容を具体的に明らかにしておらず、既にこの点において失当である。また、原告は、重大な瑕疵があればそれだけで無効であるとも主張するが、本件ではそのように解すべき特段の事情はない。

五  原告は本件処分の違法を理由に本件裁決の取消し又は無効確認を求めているが、右主張は行政事件訴訟法一〇条二項に反し失当である。

第四被告らの主張に対する原告の認否と反論

一  被告らの本案前の主張に対する原告の反論

本件取消請求に係る訴えは次のとおり出訴期間を徒過したものではない。

被告らは、本件裁決書が昭和五三年八月九日に送達されたと主張するが、仮にそうであったとしても、その送達がされたのは、原告の本店事務所ではなく原告代表者菊地三郎個人の自宅であった。しかも、これを受領したのは、同人自身ではなくその未成年の子であった。このような場合には、原告に対する有効な送達とはならない。

仮に、右が原告への送達として有効であるとしても、菊地三郎は昭和五三年八月九日は知人の小岩井兼行と会うために上京中で、翌一〇日午前二時に帰宅して就寝し、同日の午後になって初めて本件裁決書を現実に知ったものである。したがって、出訴期間の起算日は同月九日ではなく同月一〇日であり、本件取消請求に係る訴えは出訴期間を徒過していない。

二  被告らの本案の主張一は争う。

1  同一の1、4は認める。

2  同一の2のうち、原告が白羽町の土地を売却したことと同項の表の順号1ないし3は認め、その余は否認する。原告は右土地を野地不動産に対し二億九七〇〇万円(申告額)で売却したものである。

3  同一の3の表のうち、順号3、4、7ないし11の被告調査額は認める。残りの順号1は二〇〇万円、同2は二九九六万円同5は五〇〇万円、同6は二〇〇〇万円である。

三  被告らの本案の主張二は争う。

1  同二の1、2、5、6は認める。

2  同二の3のうち、西野貢及び江幡通勇他に関する被告らの主張は認める。その余の分は原告申告額どおり支払っている。なお、原告は昭和四八年一一月一三日に有限会社ウエスト不動産(以下「ウエスト不動産」という。)に対し手数料二〇〇〇万円を支払った。右手数料は、同社の従業員佐山一郎に現金で支払っている。

3  同二の4のうち、原告が合計八一〇〇万円を仕入代金として申告したことは認め、その余は否認する。

4  同二の7のうち、法人事業税一三四七万一〇八〇円を損金に算入すべきことは認める。

四  被告らの本案の主張三ないし五は争う。

第五証拠関係

一  原告

1  甲第一ないし第三号証

2  証人小岩井兼行の証言、原告代表者尋問の結果

3  乙第一〇ないし第一二号証の各二のうち、菊地三郎名下の印影が同人の印章によるものであることは認めるが、同人の署名捺印の成立は否認し、その余の部分の成立は不知。乙第四号証、第一〇ないし第一二号証の各一、第二〇号証の二、三、第四三号証の一、同号証の二の一、二、同号証の三、四、第四四ないし第四七号証の成立はいずれも不知。その余の乙号各証の成立(乙第五ないし第八号証、第一五号証の一ないし七、第一六、第一八号証、第二七号証の二ないし一二六、第三九第四〇号証は原本の存在と成立)はいずれも認める。

二  被告ら

1  乙第一ないし第九号証、第一〇ないし第一二号証の各一、二、第一三、第一四号証、第一五号証の一ないし七、第一六ないし第一九号証、第二〇号証の一ないし三、第二一ないし第二六号証、第二七号証の一ないし一二六、第二八号証、第二九号証の一、二、第三〇ないし第三四号証、第三五号証の一、二、第三六ないし第四〇号証、第四一号証の一、二、第四二号証、第四三号証の一、同号証の二の一、二、同号証の三、四、第四四ないし第四七号証。

2  証人井村博次の証言

3  甲第三号証の成立は認める。その余の甲号各証の成立は不知。

理由

一  請求原因一、二の本件課税処分の経緯は当事者間に争いがない。

二  本件取消請求に係る訴えについて

1  成立に争いのない乙第一ないし第三号証、証人井村博次の証言により成立を認める乙第四号証及び同証言によれば、次の事実が認められる。

本件裁決書は、昭和五三年八月九日に原告本店事務所又はこれと至近距離にある原告代表者菊地三郎個人の自宅に郵便配達された。そして、関東信越国税局徴収部係官の井村博次が、原告の滞納国税の納付指導等をするために、同日午後二時ころ菊地三郎宅を訪問して同人と面接したところ、菊地三郎は、「今日、このような書類が来た。」と言って本件裁決書を井村博次に呈示し、「私の言い分も相当通った。」と述べた。井村博次が本件裁決書を確認したところ、菊地三郎が誤解しているのに気付いたので、井村博次は、「これは棄却の裁決である。」と説明した。

以上の事実が認められ、これによれば、原告は昭和五三年八月九日に本件裁決のあったことを知ったことが明らかである。

2  原告は、本件裁決書は菊地三郎個人の自宅に配達され、未成年の子が受領したから、原告に対する有効な送達とはならない、と主張する。しかし、仮にそのような事実があったとしても、その後に原告代表者がこれを了知すれば、その時に原告に本件裁決書が到達し、原告がこれを知ったと解されるのであり、右原告の主張は採用できない。

また、原告は、菊地三郎は昭和五三年八月九日には知人の小岩井兼行と会うために上京していて翌一〇日の午前二時に帰宅し一〇日の午後になって本件裁決書を知った、と主張する。そして、菊地三郎は、原告代表者尋問において、同月九日には上京して小岩井兼行に会い、その日は新橋の東京ペンションに泊まり、同月一一日に帰宅した、と供述し、証人小岩井兼行も同月九日に菊地三郎と東京で会ったような気がする、と供述する。しかし、前掲乙第一ないし第四号証、証人井村博次の証言に、成立に争いのない乙第四一号証の一、二、弁論の全趣旨により成立を認める乙第四三号証の一、同号証の二の一、二、同号証の三、四及び乙第四四号証を総合すると、右原告代表者と証人小岩井兼行の各供述は明らかに措信できず、右原告主張事実は到底認められない。

3  以上のように、原告は本件裁決のあったことを昭和五三年八月九日に知ったものである。そうすると、同日から起算して(初日を算入する。初日を算入すべきことにつき、最高裁判所昭和五二年二月一七日第一小法廷判決・民集三一巻一号五〇頁参照。)三か月を経過した後の同年一一月九日に提起されたことが記録上明らかな被告日立税務署長に対する本件処分の取消請求に係る訴えは、出訴期間を徒過したものとして不適法といわざるを得ない。

4  被告国税不服審判所長は、本件裁決の取消請求に係る訴えも出訴期間を徒過した不適法なものである、と主張する。しかし、右訴えの出訴期間については行政事件訴訟法一四条一項の適用があるだけで同条四項の適用がないところ、同条一項については起算日の定めがないので民法一四〇条の期間計算に関する原則に従い(行政事件訴訟法七条、民事訴訟法一五六条)初日を算入せずに計算すべきである。したがって、昭和五三年一一月九日に提起されたことが記録上明らかな右訴えは、出訴期間を徒過したものではなく、同被告の本案前の主張は理由がない。

ところで、原告は、本件処分に所得過大認定の違法があるとして本件裁決の取消しを求めているのであるが、この主張は行政事件訴訟法一〇条二項に違反し許されない。よって、原告の被告国税不服審判所長に対する本件裁決取消請求は、理由がなく棄却を免れない。

三  本件処分の無効確認請求について

原告は、本件処分で認定した所得金額の半分近くは過大認定額であるから、本件処分は無効である、と主張する。そこで、本件処分に所得金額過大認定の違法があるか否かを検討する。

1  昭和四八年二月期分

(一)  白羽町の土地の売上代金計上漏れ

成立に争いのない乙第五ないし第九号証、乙第一三、第二一、第二二号証(乙第五ないし第八号証は原本の存在も争いがない。)、原告代表者尋問の結果により成立を認める乙第一〇ないし第一二号証の各一、二及び弁論の全趣旨により成立を認める乙第四六号証によれば、次の事実が認められる。

原告は、昭和四七年一二月末ころ白羽町の土地を島藤建設に三億〇八〇〇万円で売却した。ところが、原告は、税金を免れる目的で、戸上徳次郎等の協力を得て、これを野地不動産は二億九七〇〇万円で売却したかのように仮装して申告した。

以上の事実が認められ、これに反する原告代表者の供述は措信できず、他にこれを左右するに足りる証拠はない。よって、右の差額一一〇〇万円は、売上計上漏れとして益金に加算すべきである。

(二)  高畠二男に対する支払手数料

成立に争いのない乙第一四、第二五号証、原告代表者尋問の結果(一部)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

原告が前記のように島藤建設に売却した白羽町の土地は、以前中島道雄ほか二名が所有していた。そして、中島道雄らは、当初高畠二男にこの土地の売却の仲介を依頼していた。ところが、原告は、高畠二郎を通さずに中島道雄らと直接交渉してこれを取得した上、島藤建設に売却した。そのため原告は、高畠二郎から苦情を言われ、昭和四七年一一月ころ同人に手数料の名目で一七〇万円を支払った。しかし、原告は、これを五〇〇万円として申告した。

以上の事実が認められる(なお、原告は、本訴では右金額が二〇〇万円であると主張し、原告代表者もその旨を供述するが、措信できない。)。そうすると、右一七〇万円と五〇〇万円の差額三三〇万円の損金算入は否認すべきである。

(三)  戸上徳次郎に対する支払手数料

前掲乙第九号証、原本の存在と成立に争いのない乙第一五号証の一ないし七及び弁論の全趣旨により成立を認める乙第四五号証によれば、原告は、前記島藤建設に対する白羽町の土地の売却に関し、仲介等の手数料として戸上徳次郎に対し二〇九六万円を支払ったが、これを二一九六万円として申告した事実が認められる。

原告は、本訴においては右手数料が二九九六万円であると主張し、原告代表者もこれにそう供述をするが、客観的な裏付けを欠き措信できない。よって、右二〇九六万円と二一九六万円との差額一〇〇万円の損金算入を否認すべきである。

(四)  穂積千代子に対する支払手数料

原本の存在と成立に争いのない乙第一六、第一八号証、成立に争いのない乙第一七号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は穂積千代子に手数料として五〇〇万円を支払ったとの申告をしたが、そのような事実はないことが認められる。

したがって、右五〇〇万円の損金算入は否認すべきである。

(五)  有限会社伊豆総合設備に対する支払手数料

前掲乙第九、第四五号証、成立に争いのない乙第一九第二六号証及び原告代表者尋問の結果(一部)によれば、次の事業が認められる。

原告は、有限会所伊豆総合設備に手数料として六〇〇〇万円を支払ったと申告した。しかし、原告は、脱税を目的として同社代表取締役奈良勤一に架空の領収書等を書いてもらったにすぎず、右のような手数料支払の事実はなかった。

以上の事実が認められる(なお、原告は、本訴では、有限会社伊豆総合設備に六〇〇〇万円ではなく二〇〇〇万円を支払ったと主張し、原告代表者もその旨を供述するが、客観的な裏付けを欠き措信できない。)。よって、右六〇〇〇万円の損金算入は否認すべきである。

(六)  まとめ

そうすると、昭和四八年二月期分の所得金額は、右(一)ないし(五)の合計額(一一〇〇万円、三三〇万円、一〇〇万円、五〇〇万円及び六〇〇〇万円の合計八〇三〇万円)に、争いのない申告額(被告らの本案の主張一1の一二五六万四〇八六円)及び加算すべきことに争いのない支払手数料否認額(同一3の表のうちの順号3、4、7、8の合計二一〇〇万円)を合算した金額から、減算すべきことに争いのない支払利息計上漏れ分(同一4の四七万九五九〇円)を減算した一億一三三八万四四九六円となる。よって、これを所得金額とする昭和四八年二月期分についての本件処分に所得過大認定の違法はない(なお、以上の事実に照らし、重加算税賦課決定の要件も存在することが明らかである。)

2  昭和四九年二月期分

(一)  野口松男と伊尾春代に対する支払手数料

成立に争いのない乙第二〇号証の一、乙第四二号証、弁論の全趣旨により成立を認める乙第二〇号証の二、三及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和四八年一一月ころに野口松男に三六〇万円伊尾春代に三〇〇万円の各手数料を支払ったと申告しているが、実際にはそのような手数料を支払ってはおらず、脱税目的で右両名に依頼してそのような内容の架空の領収書を作成してもらっただけであった、と認められる。これに反する原告代表者の供述は措信できない。

したがって、右金額の損金算入は否認すべきである。

(二)  ウエスト不動産に対する支払手数料

原告は、昭和四八年一一月一三日にウエスト不動産に手数料として二〇〇〇万円を支払った、右は同社の従業員佐山一郎に現金で支払ったと主張するところ、原告代表者はこれにそう供述をし、また、ウエスト不動産が茅根町の土地売買の経費と手数料として原告から二〇〇〇万円を受け取った旨の昭和四八年一一月一三日付の領収書(甲第二号証)が提出されている。

しかし、甲第二号証が真正に成立したことを認めるに足りる的確な証拠がない。また、成立に争いのない乙第二三、第二四号証と前掲乙第四五号証によれば、佐山一郎はウエスト不動産の従業員ではなく、原告から金員を受領したこともなかったこと、原告は、ウエスト不動産への支払手数料の件を申告しておらず、審査請求段階に至ってはじめてこれを主張したことが認められる。これらのことと、前述のように原告が脱税目的で架空の領収書を何枚もそろえていることや、この支払手数料の内容や性格等に関する原告代表者の供述が不明確で客観性を欠くこと等に照らすと、原告がウエスト不動産又は佐山一郎に二〇〇〇万円の手数料を支払ったとの事実は存しないものと認められる。

(三)  仕入代金

別紙一の備考欄記載の乙号証(いずれも原本の存在と成立の双方又は成立に争いがない。)と弁論の全趣旨によれば、原告は仕入金額として被告らの本案の主張二4記載の八一〇〇万円を申告したが、これに対応する仕入取引の事実はなく、これとは別に、原告は茅根町の土地を購入するために別紙一記載のとおり合計七三八万九〇〇〇円を支払ったことが認められる(別紙一の順号46・47については当事者間に争いがない。また、別紙一の順号32に関する乙第二七号証の九、一二に記載されている柴田浩江は柴田操の長女、同順号36に関する同号証の13の梶山幸男は梶山三之助の孫、同順号22に関する同号証の34の江幡満男は江幡ミネの長男、同順号34、35に関する同号証の62の綿引くにえは綿引徳一の妻、同順号4に関する同証号の102の上野さかいは上野恭雄の妻である。)。

したがって、右の差額七一八万一〇〇〇円の損金算入は否認すべきである。

(四)  まとめ

そうすると、昭和四九年二月期分の所得金額は、右(一)(三)の合計額(六六〇万円と七一八万一〇〇〇円の合計一三七八万一〇〇〇円)に、争いのない申告額(被告らの本案主張二1の三三万五〇五二円)、加算すべきことに争いのない売上計上漏れ分(同二2の二三〇〇万円)、支払手数料否認額(同二3のうちの西野貢に対する一〇〇万円と江幡通勇他に対する一四〇万円の合計二四〇万円)及び受取利息計上漏れ分(同二5の七七万一五六七円)を合算した金額から、減算すべきことに争いのない支払利息計上漏れ分(同二6の一三八万〇一三九円)及び法人事業税(同二7の一三四七万一〇八〇円)を減算した二五四三万六四〇〇円となる。よって、その範囲内である一九一二万八〇八〇円を所得金額とする昭和四九年二月期分についての本件処分に所得過大認定の違法はない( なお、以上の事実に照らせば、重加算税賦課決定の要件も存在することが明らかである。)。

3  そうすると、本件処分が所得金額を過大に認定したことを理由とする本件処分無効確認の請求は、その前提を欠き失当である。

四  本件裁決の無効確認請求について

原告は、本件処分の無効確認請求と同様に、所得過大認定を理由として本件裁決も無効である、と主張する。しかし、処分の無効確認の訴えを提起できる場合は、その処分についての審査請求を棄却した裁決の無効確認の訴えにおいて処分の違法を理由として無効確認を求めることはできない(行政事件訴訟法三八条二項、一〇条二項)。よって、本件裁決の無効確認請求は主張自体理由がない。

五  以上のとおり、係争二事業年度の本件処分の取消請求に係る訴えはいずれも出訴期間を徒過したものとして不適法であるからこれを却下することとし、その余の本件裁決取消請求と本件無効確認請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとする。そこで、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 泉徳治 裁判官 大藤敏 裁判官 岡光民雄)

別紙 一

<省略>

<省略>

<省略>

別紙 二

(一、五〇〇〇、〇〇〇円×〇・〇六+一、五〇〇、〇〇〇円×〇・〇九+一一〇、三八四、〇〇〇円×〇・一二)=一三、四七一、〇八〇円

(注) 右の計算式において

<1> 〇・〇六とは、所得金額のうち年一五〇万円以下に対する事業税率を

<2> 〇・〇九とは、所得金額のうち年一五〇万円を超え年三〇〇万円以下に対する税率を

<3> 〇・一二とは、所得金額のうち年三〇〇万円を超える金額に対する税率を

それぞれ示すものである。

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